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政府は「同じ労働には同じ賃金を払え」とは言っていない

なんだか誤解が生じやすいようなタイトルをつけてしまいましたが、昨年末に政府が発表した「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」を読めば明らかです。

政府は、同一労働同一賃金」そのものを法律上規定しようとしているのではありません

政府がやろうとしているのは、「客観的な理由のない不利益取扱い(待遇格差)の禁止」です。

私の個人的な感覚だと「同一労働同一賃金」と「客観的な理由のない不利益取扱い(待遇格差)の禁止」では、ぜんぜん違う話のように聞こえます。

ネットでも、同じように感じた人は多いようで、政府の同一労働同一賃金は「マヤカシだ」「インチキだ」という意見がずいぶんありました。

なぜ「同一労働同一賃金」が「客観的な理由のない不利益取扱い(待遇格差)の禁止」という話に変わってしまうのでしょうか?

昨年秋、東京大学水町勇一郎先生のセミナーを聞く機会がありました。その中で、この問題について説明しておられたのでシェアしたいと思います(水町先生は、厚生労働省同一労働同一賃金の実現に向けた検討会の委員でもあります)。

1.「同一労働同一賃金」で解決したい日本の課題とは

まず最初に、「政府は、なぜ同一労働同一賃金を法制化したいのか?」についてカンタンに確認します。

世界的(歴史的)に、「同一労働同一賃金」というとき、もともとは男女間の賃金差別の是正が目的でした。

今回、政府が「同一労働同一賃金」の法制化を目指す目的には、男女間の賃金差別の是正もあるでしょう。しかし、メインテーマとして言われているのは、「正規・非正規労働者間の待遇格差の是正」です。

安部総理は「非正規という言葉を無くす!」なんて言ってましたね。

まず、最初に、「正規・非正規労働者間の待遇格差の是正」を目的に「同一労働同一賃金」を導入しようとしている・・・ということを確認しておきたいと思います。

2.なぜ、「労働」という言葉を使わないのか?

「正規・非正規労働者間の待遇格差の是正」が目的だ・・・ということを確認した上で、「同一労働」についてみてみます。

「労働」といえば一般的に「職務」ということになります。

しかし、日本では、職務内容に関連するもの以外でも、正規・非正規間の待遇格差が存在します。

たとえば「交通費」です。正社員には「交通費」を支給するが、パート社員には「交通費なし」などと書かれている求人票なども、よく見かけるでしょう。

つまり、「同一労働」という言葉を使わないのは、「労働に関係しない格差」も許さない・・・という意味なのだそうです。

3.なぜ「賃金」ではなく、「待遇」なのか?

つぎは、「同一賃金」の部分です。

これは、「賃金」と限定してしまうと、「賃金以外の待遇」の格差が是正されないからです。

たとえば、「社員には個人にロッカーを用意するけど、パート社員には用意されない」とか、「社員には安全教育を行うけれど、パート社員に教育はない」とか、「社員には昼食費を助成するけど、パート社員には助成しない」とかいう格差です。

もちろん「待遇」の中には、当然「賃金」も含まれています。賃金に格差があってもいけないし、当然、それ以外の待遇に格差があってもいけないということです。

4.「客観的理由のない」とは、どういう意味?

いままで、「格差があってはいけない」という話をしました。

いままでのお話を総合すると、政府は「労働」や「賃金」に限定しない、もっと広い意味での「待遇」を是正しようとしていることがわかります。とても良いことだと思います。

ただし、「客観的な理由のない」の部分に注意が必要です。

「客観的な理由のない不利益取扱い(待遇格差)の禁止」ということは、「客観的理由のある不利益取扱いはオッケー」ということでもあります。理由によっては「格差が正当化される」のです。

つまり、ここでは、かならずしも「同一」ではないのです。

意地の悪い書き方をすれば、昨年12月に発表された「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」は、「正当化される格差」と「正当化されない格差」を例示したもの・・・といえるでしょう。

5.まとめ

ネット上では、たとえば「同じ労働なら、能力や成果は評価されなくなるのか」とか、「みんな横並びで競争せずに同じにしましょうということか」などの意見がありましたが、当然違います。

同一労働同一賃金」が法制化されても、「格差がゼロ」にはなりません。「客観的理由のある格差」が残ることになります。

最後に、セミナーの中で、水町先生が指摘されたポイントを1つだけ書き留めておきます。

「正規と非正規の職務を明確に分ける」というルールの抜け道を作らない(格差が固定化してしまう)

果たして、いま検討が進んでいる「同一労働同一賃金」法制化案では、このポイントについて、きちんと対策がされているのでしょうか?

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