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Excelで労働時間を集計する「法律の取り扱い(集計すべき9つの労働時間)」3/5

 ここで再確認です。労働時間を集計する目的は「労働時間をリアルタイムで把握して上手にコントロールため」でした。きっかけは「法改正(働き方改革関連法)」です。労働基準法をはじめとする8本の労働法の改正が行われました。

 ここでは、法律について詳しくツッコむつもりはないので、法改正を踏まえたうえで労働時間を集計するために必要な集計項目を、法律の観点からポイント絞って順番に確認していきます。

 なお、最初に言い訳します。この記事は、全体のイメージをザックリ確認することを最優先の目的にしています。そのため、法律的な意味での厳密さに欠けるところがあるかも知れません。あらかじめご了承のうえ、実際に実務で使う場合には、ご自身でよく確認することをおすすめします。

確認する必要があるのは「就業規則」と「労働基準法

 私は社労士なので、たとえば「○○○という働き方をしたときの割増賃金は、どう計算したら良いですか?」と聞かれることがあります。

 こんなとき、「(労働基準法では)○○○と計算したら良いですよ」と答えるのは、非常に危険だと思っています。「就業規則」と「労働基準法」をWikipediaで調べると、こんなことが書いてあります。

就業規則(しゅうぎょうきそく)とは、企業において使用者が労働基準法等に基づき、当該企業における労働条件等に関する具体的細目について定めた規則集のことをいう。(Wikipedia就業規則」より)

 また、就業規則労働基準法の関係については、次のように書かれてあります。

労働基準法は、労使が合意の上で締結した労働契約であっても、労働基準法に定める最低基準に満たない部分があれば、その部分については労働基準法に定める最低基準に自動的に置き換える(強行法規性、第13条)として民事上の効力を定めているほか、一部の訓示規定を除く殆ど全ての義務規定についてその違反者に対する罰則を定めて刑法としての側面も持ち、また法人に対する両罰規定を定めている(第13章)。(Wikipedia労働基準法」より)

 以上を踏まえて「○○○という働き方をしたときの割増賃金は、どう計算したら良いですか?」という問いに答えるとしたら、「就業規則に書かれているとおりに計算してください。ただし、就業規則に書かれていることが労働基準法に定める最低基準に満たない部分があれば、その部分は労働基準法に基づいて計算してください」という感じの答えになります。

 労働時間を管理するときも同じ考えです。不思議なことに、自社の就業規則をあまり読まずに労働時間を管理・集計しようとする人がいるので、念のためお知らせしました。

就業規則の労働時間」確認のポイント

 就業規則は会社ごとに異なるために一般的なお話はしづらいですが、たとえば「休日の労働には3割5分の割増賃金を支払う」という規定と「○月○日は会社の創業記念日と定めて休日とする」という規定があった場合、他に関連規定がないのであれば、創業記念日の労働には3割5分の割増賃金を払う必要があります。創業記念日が「法定休日」「所定休日」どちらであってもです。

 また、就業規則の規定が「休日の割増賃金は2割5分とする」となっている場合でも、労働基準法の規定を下回っているので、労働基準法の規定により、法定休日に支払うべき3割5分の割増賃金になります。

 いままで色々な会社のたくさんの就業規則を見てきましたけど、案外、労働基準法を上回る条件の規定を見かけます。労働基準法を上回る条件を就業規則で決めているのに、労働基準法の基準を適用してしまったら大問題になるので注意喚起の意味で書きました。

 このあたりの説明ナシで、労働基準法の説明している解説も多く見かけます。おそらく「そんなの暗黙の了解だ」ということなんだろうと思いますけど。

労働基準法の労働時間」確認のポイント

 次は、労働基準法の労働時間のお話です。

 労働基準法は強行法規なので、労使の合意にかかわらず適用されます。なので、「労働時間をどのように集計して管理すべきか」ということを考えるためには、就業規則を確認する必要があり、さらに、その就業規則の規定は労働基準法の定める最低基準を満たしている必要がある・・・ということになります。

 労働基準法に定める最低基準を下回ると「罰則」が適用されることが多いので(というか、ほとんど罰則があります)、慎重に確認しておきたいところです。

所定労働時間と法定労働時間と時間外労働時間

 Wikipediaには、「時間外労働」を次のように解説しています。

時間外労働(じかんがいろうどう)とは、労働基準法等において、法定労働時間を超える労働のことをいう(Wikipedia 時間外労働)

 同時に次のような注釈があります。

通常は、就業規則等で定められた所定労働時間を超えて労働することの意味で用いられるが、法的には、所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えなければ「時間外労働」とはならない。

 正直いってピンとこない説明です(少なくとも私にはピンときません)。で、同じWikipediaの「労働時間」のページをみると、次のような記載がありました。

労働基準法に定められた労働時間を法定労働時間、就業規則などに定められた労働時間から休憩時間を除いた時間を所定労働時間という。法定労働時間または所定労働時間のいずれか長い時間を越えた時間外労働の時間を法定外労働時間、所定労働時間を越え法定労働時間未満を所定外労働時間ということがある。(Wikipedia 労働時間より)

 「労働時間」と「休憩時間」は別の時間なので、労働時間から休憩時間を除くことはできないと思うんですけど、細かいところにこだわると先に進めないので、このWikipediaの解説にもとづいて、ざっくりと「所定労働時間」「法定労働時間」「所定外労働時間」「法定外労働時間」を図にしました。

所定労働時間、法定労働時間、所定外労働時間、法定外労働時間

 それぞれの時間には法律上の制限などがあるので、管理のために集計する実務上は「所定労働時間」「所定外労働時間」「法定外労働時間」を区別して集計することをオススメします。 (法定労働時間は法律で決まっている労働時間なので、集計の直接の対象にはならず、法定外労働時間の判定に使います)

法的に別扱いになる労働時間「休日労働時間」

 いままで集計すべき会社の労働時間として「所定労働時間」「所定外労働時間」「法定外労働時間」などが登場しましたが、じつは法的に別扱いになる労働時間があります。それが「休日労働時間」です。

 この記事では、休日労働時間とは「法定休日の労働時間」という意味で使います。通常は、所定休日の労働時間は時間外労働の労働時間として集計します。ただし、最初にも書いた通り「所定休日の労働にも法定休日の労働と同じ割増賃金を支払う」というような規定が就業規則に書かれている場合は「所定休日労働時間」と「法定休日労働時間」をわけて集計することをオススメします。

 「所定休日労働時間」と「法定休日労働時間」は、法律上の規制(上限規制など)の適用が異なるので、分けて集計する必要があるのです。

割増賃金に関連して、集計すべき最後の労働時間

 いままで、労働時間管理のために集計すべき労働時間として、「所定労働時間」「所定外労働時間」「法定外労働時間」「休日労働時間(所定・法定)」などが登場しました。書いている本人がビックリするくらい複雑になってきています。社労士歴10年の経験から、私は、今ここに断言します。もし、この記事をここまで読んでいる人がいれば、それは「よっぽどセッパつまった事情がある人」か「やむにやまれぬ事情を抱えた人」であることでしょう。中途半端な好奇心でここまで読み進めることはできません(ややこしすぎて)。

 私は、そんな「セッパつまった、やむにやまれぬ事情をかかえた」あなたのために、今、この記事を心を込めて書いています。とても書きづらいんですが、じつは、集計すべき労働時間が、まだもう少しあります。それは、「60時間超の時間外労働時間」と「深夜労働時間」です。これは「割増賃金」を支払うべき時間として登場します。最後に集計すべき9つの労働時間をまとめて表にしますので、あと少し、続けてお読みいただければ幸いです。

時間外の割増賃金

 時間外の割増賃金を支払うべき労働時間は、「法定外労働時間」です。割増率は2段階で設定されています。月60時間までの時間外労働の割増率は2割5分(25%)、月60時間を超える時間外労働の割増率は5割(50%)です。

 この60時間超の割増率は、大企業は2010年4⽉からすでに適用されていますが、中小企業は2023年4⽉から適用されることになっています。この記事を書いている2022年9月時点では、まだ中小企業に適用されていませんが、「集計して管理すること」が必要になることに変わりないと考えています。

休日の割増賃金

 休日の割増賃金を支払うべき労働時間は、「法定休日労働時間」です。割増率は3割’5分(35%)です。

 繰り返しになりますが、就業規則の記載にもとづいて「所定休日労働」にも「法定休日労働」と同じ3割5分(35%)以上の割増賃金を支払う例がありますが、「法定休日労働時間」と「所定休日労働時間」は分けて集計することをオススメします。この2つの休日労働時間は法的な意味が異なり、規制のかかり方にも影響するからです(たとえば、36協定の内容とか)。

 ところで、休日というのは「日」ですから、「0時から24時まで」の時間帯を指します。3割5分の割増率は、「0時から24時までの休日の時間帯」の労働に適用されます。

深夜の割増賃金

 深夜の割増賃金を支払うべき労働時間は、午後10時から午前5時までの労働です。割増率は2割5分(25%)以上です。

 これは、深夜という時間帯にかけられる割増賃金なので、「所定労働時間」「所定外労働時間」「法定外労働時間」「法定休日労働時間」「60時間超の時間外労働時間」のすべての労働時間に例外なく適用されます。割増率をまとめると、

  • 所定労働(深夜時間帯でない)、割増率なし
  • 所定外労働(法定労働時間内で、かつ、深夜時間帯でない)、割増率なし
  • 所定労働を深夜時間帯に行った場合、割増率2割5分
  • 所定外労働(法定労働時間内)を深夜時間帯に行った場合、割増率2割5分
  • 法定外労働を深夜時間帯に行った場合、割増率5割(2割5分+2割5分)
  • 所定休日労働を深夜時間帯に行った場合、割増率5割(2割5分+2割5分)
  • 法定休日労働を深夜時間帯に行った場合、割増率6割(3割5分+2割5分)
  • 60時間超の時間外労働を行った場合(深夜時間帯でない)、割増率5割
  • 60時間超の時間外労働を深夜時間帯に行った場合、割増率7割5分(5割+2割5分)
  • 60時間超の所定休日労働を深夜時間帯に行った場合、割増率7割5分(5割+2割5分)

 いずれも、労働基準法に定められた最低の基準です。

まとめ

 最後に、いままで登場した管理のために集計すべき9つの労働時間をひとつの表にまとめようと思います。

 じつは、Wikipediaにそれっぽい図があったので引用して終わろうと思っていたのですが、深夜割り増しの適用範囲とか誤解しそうな図だったので、新たに作ることにしました。

集計すべき労働時間一覧

 集計すべき9つの労働時間を書き出してみます。

  1. 所定労働時間
  2. 所定外労働時間
  3. 法定外労働時間
  4. 60時間超の時間外労働時間(法定外)
  5. 所定休日労働時間(法定内)
  6. 所定休日労働時間(法定外)
  7. 60時間超の所定休日労働時間(法定外)
  8. 法定休日労働時間
  9. 深夜労働時間(他の労働時間とかならず重複します)

 昭和の時代は、ほとんどの労働者が「所定労働時間=法定労働時間」でした。労働時間の集計と管理という点では、結構シンプルになります。でも、令和の時代は「法定時間内の所定休日労働」なんかバンバン出てきますので、かなり管理・集計がたいへんになりますね。

第4回法改正編予告

 次回は、法改正の内容を、労働時間の集計・管理に必要なポイントに絞ってカンタンにまとめます。

  • 要注意!法改正での変更点
  • 上限規制

 今回は、(私にとって)ヘビーな内容だったので、次回はサクッと進めたいと思います。