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「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」と「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」

 厚生労働省のホームページに、改正労働基準法に関するQ&A (2019/3掲載)[1,165KB]が公開されました。

 すでにでている「通達」などをベースにした内容です。あまり目新しい部分はないな・・・などと思って読んでいたら、すこし「おやっ」とおもうところがありました。

 表題の「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」と「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」です。今日は、コレを確認しようと思います。

「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」

 「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」は、Q&Aの「3-12」に登場します。

 内容を転記してみました。

【3-12】 (Q)事業場が独自に設けている法定の年次有給休暇と異なる特別休暇を労働者が取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできますか。


(A)法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇(たとえば、法第 115条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時季を限定せず、法定の年次有給休暇を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除きます。以下同じ。)を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません。  なお、法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年次有給休暇に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意をすることなく就業規則を変更することにより特別休暇を年次有給休暇に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要があります。

 一番のポイントと考えられるのは、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除きますという部分です。「上乗せ」なのか「上乗せではない」のか、どのように判断するのか定かではありませんが、どのようなイメージで考えられているのか、うかがうことができるのが、次の「年次有給休暇と同じ賃金が支給されるリフレッシュ休暇」です。

「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」(年次有給休暇と同じ賃金が支給されるリフレッシュ休暇)

 「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」は、Q&Aの「3-34」に登場します。

 こちらも、内容を転記してみました。

【3-34】 (Q)当社では、法定の年次有給休暇に加えて、取得理由や取得時季が自由で、年次有給休暇と同じ賃金が支給される「リフレッシュ休暇」を毎年労働者に付与し、付与日から1年間利用できることとしています。  この「リフレッシュ休暇」を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除してよいでしょうか。


(A)ご質問の「リフレッシュ休暇」は、毎年、年間を通じて労働者が自由に取得することができ、その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間において法定の年次有給休暇の日数を上乗せするものであれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えありません。

※ 当該休暇の付与日は、法定の年次有給休暇の基準日と必ずしも一致している必要はありません。

 判断の要件部分を列記してみました。

1.年間を通じて労働者が自由に取得することができる。 

2.その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間において法定の年次有給休暇の日数を上乗せするもの

少しの違いで大きな差が・・・

 とても似ている2つの休暇ですが、「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」と「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」(年次有給休暇と同じ賃金が支給されるリフレッシュ休暇)では、その取扱に大きな差があります。

 「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」では「使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません」ということですから、この特別休暇とは別に「使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇」を確保しないといけません

 「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」(年次有給休暇と同じ賃金が支給されるリフレッシュ休暇)では、「使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えありません」ということですから、たとえばリフレッシュ休暇が1日あれば、使用者が時季指定すべき有給休暇は残りの4日になるでしょう(つまり、使用者が時季指定すべき有給休暇が1日減ります)。

 2つの要件(「年間を通じて労働者が自由に取得することができる」「その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間において法定の年次有給休暇の日数を上乗せするもの」を満たすかどうかで、けっこうな差がでますね。

「法定の年次有給休暇日数を上乗せするもの」に該当しないと考えられる例

 該当しないと考えられる例は、たとえば、次のような休暇です。

  1. 創立記念日休暇」や「誕生日休暇」のように、取得日がきまっているもの  「年間を通じて労働者が自由に取得することができる」という要件をみたしませんね。
  2. 取得理由が限定されているもの  たとえば、インフルエンザ等に罹患したときに限り取得できる「病気休暇」や、親族の結婚式に出席するときに限り認める「慶弔休暇」などは、要件が法定の年次有給休暇とは異なります。
  3. 「休暇」という名前の「休日」のように、賃金が支払われていないもの  たとえば多くの会社では、残業代単価を計算するとき「月給÷1か月あたりの平均所定労働時間」を計算します。この平均所定労働時間は原則「(365-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12」で計算されるのですが、この「年間所定休日」に日数がカウントされているモノは「休暇」と名前がついていても「休日」です(つまり、その日の分の賃金は支払われていないと考えられます)。年間所定休日が増えると残業代単価が高くなり、かつ、「法定の年次有給休暇日数を上乗せするもの」に該当しないので、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができません。このあたり、ウッカリやらかしてしまいそうですね。

実例)ゴールデンウィークとお盆に休みのある会社の例

 たとえば、ゴールデンウィークに2日、お盆に3日の休みがある会社を考えてみましょう。労使協定を締結して「年次有給休暇の計画的付与制度」を利用している会社も多いでしょう。

 労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。つまり、計画的付与で5日の年次有給休暇を与えようとすると、10日以上の有給休暇が付与されている労働者しか対象にできませんね。

 ここで、新入社員などは年次有給休暇の権利をもっていませんから、「特別休暇」を与えているケースも多いでしょう。この「特別休暇」は、計画的付与の対象日にしかとれない休暇と考えられますから使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません。労働者が自由に取ることはできませんからね。

 また、4月1日入社の労働者に年次有給休暇が付与されるのは10月1日ですが、この年次有給休暇のうち5日を前倒し付与しても使用者がその分の年次有給休暇を時季指定することはできません。使用者が時季指定できるのは「有給休暇が10日以上付与される労働者」です。

 結局、4月1日に入社する新入社員に対して可能な選択肢は、

  1. 計画年休付与日に、5日の特別休暇をあたえる。
  2. 年休(10日)を前倒し付与して、そのうち5日を計画的付与するか、使用者が時季指定をする(この場合、あとの5日は、労働者が自由に使えることになります)。

 ということになるでしょうか。

 計画的付与制度を実施するに当たって、新入社員に特別休暇を付与している会社は、入社したばかりの社員に「年次有給休暇を10日以上前倒し付与」をすることに、何らかの抵抗がある会社・・・と考えると、今回の法改正でも、扱いはかわらなそうですね。

まとめ

 今回の法改正で、法定の年次有給休暇とは別に会社が設けた休暇は、「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」と「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」に区分されることになり、とりあつかいが異なることになりました。

  1. 「法定の年次有給休暇と異なる特別休暇」であれば、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません.
  2. 「法定の年次有給休暇の上乗せと考えられる休暇」であれば、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えありません。

 法違反になるかどうかの境界になることもあるでしょうから、キッチリ確認しておきたいモノです。

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有給休暇の理由を上司に聞かれた人のイラスト