働き方改革応援団!

「働き方改革」を前進させるため、関連情報をネタにいろいろ考えてみたい。

【スポンサーリンク】

【朝日新聞】休日含め「残業960時間」上限720時間に抜け穴。議論されず・・・を検証してみる。

f:id:TsuRu:20180608093541p:plain

 朝日新聞の今朝(6/8)の朝刊に掲載されていました。

www.asahi.com

 事実であれば、ユユシキ大問題です。さっそく内容を検証してみましょう。

f:id:TsuRu:20180608095035j:plain

 まずは、朝日新聞の記事の内容を確認しましょう。  「年間の特例上限720時間にはさらに抜け穴があり、年960時間まで働かせることができる」という内容ですが、その説明は次のとおりです。

  1. 「年720時間」は休日労働を含まない上限である。
  2. 特に忙しい時期に認められる「2~6ヶ月平均で月80時間」の特例は、休日労働を含んだ基準になっている。
  3. この残業(「2~6ヶ月平均で月80時間」)を12ヶ月繰り返し、「80時間×12ヶ月=年960時間」の残業ができる

 ひとつひとつ確認していきます。

1.記事で示されている「法案」というのは、どれか?

 まず、記事の元になっている「働き方改革関連法案」がナニなのかわからなければ検証ができません。そこで、働き方改革関連法案の正式名称である「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」を検索すると、次のホームページが一番上に表示されます。

www.mhlw.go.jp

 ここでは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(平成30年4月6日提出)」と朝日新聞の記事をつきあわせて確認します。

2.年720時間には休日労働を含まないのか?

 まず最初の確認ポイントです。月720時間には「休日労働」を含まないのでしょうか?

 ここでいう「休日労働」とは、「労働基準法第35条に定める休日に行う労働」という意味だと考えられます。

(休日)

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

○2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。 (労働基準法第35条)

 で、さっそく法案の該当部分を見てみましょう。

 当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に3の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(2のに関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(2のに関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができるものとすること。

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(平成30年4月6日提出)より抜粋)

 メチャメチャわかりにくい文章ですが、「720時間を超えない範囲内に限る」とされているのは、「1年について労働時間を延長して労働させることができる時間」であることが読み取れます。

 直前に書いてある「百時間未満の範囲内に限る」とされている時間が、「一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間」とされていることを見ても、「100時間未満には、休日労働を含む」「720時間以下には、休日労働を含まない」ということのようですね

 念の為、法案のページにある「概要」を確認してみましょう。

 臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。

(概要より抜粋)

 「単月100時間未満」「複数月平均80時間」には、「(休日労働含む)」のカッコ書きがあるのに対して、720時間にはありません。

 結局、4月6日国会提出の法案によれば、「年720時間には休日労働は含まない」ということになるようです。

3.「特に忙しい時期に認められる」とはどういう意味か?

 続いて、記事に書いてある「特に忙しい時期に認められる」とは、どのような意味なんでしょうか?

 法案には次のように書かれています。

当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に3の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(平成30年4月6日提出)より抜粋)

 この「特に忙しい時期に認められる」「臨時的に」という言葉の具体的な内容は、厚生労働省のページの「法律案案文・理由」に記載があります。

 この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては 、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。

(法律案案文・理由より抜粋)

 カッコ書きで法律条文を引用しまくっているのでわかりにくいですが、ザックリいうと「1ヶ月45時間を超えられるのは、1年間に6ヶ月まで」ということになります。この制限には「休日労働」を含みません

 結果として、「1ヶ月45時間以内の時間外労働」とは別に休日労働を命じることが(適切な手続きをとれば)可能になります。

4.「2~6ヶ月平均で月80時間」には休日労働を含んでいるか?

 では、休日労働の時間には上限が設定されていないのでしょうか?

 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間八十時間を超えないこと。

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(平成30年4月6日提出)より抜粋)

 ここでは、「労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間」と明記されているので、休日労働を含めて80時間を超えることはできません

5.で、結局月80時間×12ヶ月=年960時間の残業が可能なのか?

 結局、「月80時間×12ヶ月=年960時間の残業が可能」という朝日新聞の指摘は正しいのでしょうか?

 「残業」というアイマイな言葉を使っているのでわかりにくいですが、「時間外労働と(法定)休日労働の合計」が960時間を超えるコトは可能なようです。

 この「960時間」を具体的にイメージしてみましょう。

 たとえば、記事を書いている2018年6月を例に考えてみます。1週間は日曜から土曜日までとし、法定休日を日曜日だとしましょう。

 日曜は4回あるので、この日曜日に休日労働を8時間(朝9時からよる6時まで。途中休憩1時間)とると、

 休日労働時間 = 8時間 × 4回(日曜日) = 32時間

 休日労働だけで32時間になるので、

 時間外労働の上限 = 80時間(時間外休日労働の上限) ー 32時間(休日労働) = 48時間

 ところで、「時間外労働」とは、原則「1週間40時間、1日8時間」を超えた時間のことです。たとえば、この会社の「所定休日」を土曜日だとすると、土日を除いた「所定労働日」は21日です。

 平均的に残業するなら、

 48時間 ÷ 21日 = 2時間17分

 つまり、この条件で働いた場合、6月は1日「2時間17分」の時間外労働をおこない、「土曜日を必ず休み」、日曜日を「8時間ピッタリ」働けば上限の「80時間」に達することになります

 念のために同じ条件で2018年7月についても、具体的に確認してみましょう。

 休日労働時間 = 8時間 × 5回(日曜日) = 40時間

 時間外労働の上限 = 80時間 ー 40時間 = 40時間

 (土日を除いた)所定労働日 = 23日

 40時間 ÷ 23日 = 1時間44分

  つまり、この条件で7月の1ヶ月を考えると、1日「1時間44分」の時間外労働をおこない、「土曜日を必ず休み」、日曜日を「8時間ピッタリ」働けば上限の「80時間」に達することになります

 いかがでしょうか?

 ここに書いた例は、あくまでも「例」です。どこの会社でも平均的に毎日働いているわけではありませんね。したがって、1日4時間残業した場合には、別の日の時間外労働や休日労働を減らさなければならないことになります。

 みなさんの会社の時間外労働・休日労働の現実はどうなっていますか?  

まとめ

 結局、朝日新聞の指摘している「残業960時間まで可能」という表現は、時間外労働だけで年間960時間まで可能であるように見えてしまうので、適切な表現ではないと思います

 より正確に書くならば、「時間外労働と法定休日労働の合計が、ある一定の制限のもとで、年間960時間まで可能」となるでしょう。

 いまは、この程度の上限さえも「無い」のです。わたしは、早急に対処すべき問題ではないかな・・・と思っています。

 このブログに何度も書いていることですが、もう一度確認しておきます。

 この法案で、過労死ラインを超えて働かせることはできません。「過労死ラインのギリギリいっぱい」であれば、一定の条件を満たせば可能です。また、会社が自由に時間外労働を決められるわけではありません。労使合意による36協定の締結・届け出が必要です。

 現実問題として、この36協定が「有効に機能していない」と指摘されているところですが、有効に機能するように頑張るアプローチもあると思います。人の命が関わっているんですから。

 なお、「年間960時間問題」は、以前にも朝日新聞が指摘しています(このブログでも、ご紹介しました)。

www.rows.jp

 また、「時間外労働の上限」というテーマで書いた記事もあります(この記事では、休日労働は、基本考慮していません)。

www.rows.jp

 以上、ご参考までにご紹介します。

 ヌケ・モレ、私のカンチガイ等あれば、ご指摘お願いします。